リレーションシップ・マーケティング

リレーションシップ・マーケティングとはなにか

顧客や取引先との関係に気を配ることはビジネスの基本といえる。顧客や取引先と良い関係を築くことがビジネスに成功をもたらすという考えに共感する方も多いだろう。しかし意外なことに、マーケティングの歴史のなかで顧客との関係が真剣に論じられるようになったのは比較的遅く、1990年代に入ってからであった。

顧客との関係に着目することで、優れたマーケティング成果を達成しようとする考えを「リレーションシップ・マーケティング」といいう。リレーションシップ(relationships)とは関係性という意味なので、日本では「関係性マーケティング」ともいわれる。

リレーションシップ・マーケティングの罠

リレーションシップ・マーケティングは顧客との間に友好的で安定的な関係を築くことで、長期的にみて、好ましい成果の実現を目指すものであり、ひとことでいえば良い関係づくりを目指すマーケティングである。こう書くと随分とあたりまえで、単純なことに思われるかもしれない。しかしそこにリレーションシップ・マーケティングの罠がある。

そもそも「関係」とは何か。どのようにしたら測ることができるのか。いつも何気なく使っている言葉であるが、いざ説明を求められると戸惑ってしまう。

リレーションシップ・マーケティングのポイントはここにある。私たちは「得体の知れないもの」をマネジメントすることはできない。「関係とは何か」をしっかりと理解できていなければ、良い関係づくりも徒労に終わりかねないのである。

絆づくりの幻想を超える

リレーションシップ・マーケティングにとって不幸だったのは「売り手と買い手の結婚」というメタファー(隠喩)が使われたことだろう。リレーションシップ・マーケティングに注目が集まり始めた1990年代のことである。その心地よい響きから、関係とは何かが十分に理解されないまま、結婚というメタファーが独り歩きを始め、「これからのマーケティングに必要なことは、顧客としっかりと手を結び、幸せの階段を登ることだ」といった「絆づくりの幻想」がビジネス書を中心に声高にさけばれたのである。しかし売り手と買い手の関係とは、そんなに甘いものだろうか。

リレーションシップ・マーケティングをマスターするには、「顧客はなぜ取引先との関係を大切だと思うのか」という原点に立ち返ることが大切である。肌感覚では分かっていることを、ひとつひとつ、ていねいに検討して行くことで、奥深い論理が形成されるとともに、あらゆる場面で役に立つ基本的な戦略が導かれるからである。