ゼミナール

ゼミナール(ゼミ)とは、少人数の学生が教員の指導もとで、自ら共同研究や発表を行うスタイルの教育方法であり、「演習」ともいわれる。

日本ではほとんどの大学でゼミナールが開講されているが、世界を見渡すと、ゼミナールが存在しない国もあるようだ。たとえばアメリカの大学(学部)は講義を中心にカリキュラムが構成されており、ゼミナールのような少人数の対話型教育がスタートするのは大学院からのようである。ゼミナールは日本の大学教育を特徴づける重要な教育システムといえる。

考える力をみがく

マーケティングをマスターするには、マーケティングの専門的知識を学ぶことが必要である。さまざまな概念や理論を知らなければ、優れたマーケティング活動はできないだろう。しかし、それだけでは不十分である。人々の心をつかみ「これが欲しい」という気持ちを生み出すには、独自性の高い戦略を策定することが求められる。それでは独自性の高い戦略を策定するには何が必要だろうか。おそらく最も基盤となるのが考える力だろう。そこで私たち久保田ゼミナールでは「マーケティングについての専門的知識」と「考える力」を身につけることを目的に活動を行っている。

論文ベースのゼミナール活動

私たちのゼミナールでは、ケーススタディー、フィールドワーク、専門書の輪読、企業とのコラボレーションなど、色々な課題に取り組んでいる。なかでも特に重視しているのが、研究論文の作成である。研究論文の作成は「マーケティングについての専門的知識」と「考える力」を身につけるために、非常に効果的だからである。

一本の論文を完成させるのは、想像する以上に大変な作業である。自ら研究テーマを定め、膨大な数の先行研究を熟読し、それらを丹念に整理しなくてはならない。独自の視点や仮説を設定し、実験や調査によって確認する必要もある。多くの学生たちは、論文作成に取りかかり、しばらくすると、それが気の遠くなるような作業であることを理解する。

研究を続ければ続けるほど、ほとんどの仮説や新しいアイディアが、すでに発表されていることを知る。論旨を組み立てていくうちに、自分たちの考えに曖昧さや論理的矛盾が含まれていることに気づく。仮説や主張を裏づけようと調査分析を行った結果、それまでの議論の脆さが露呈する。こうして学生たちは自分たちの思考がいかに表面的なものであったか、そして独創性に欠けたものであったかを痛感することになる。

学生たちの苦労は執筆段階に入ってからもつづく。一貫した主張にもとづく理路整然とした文章を数十ページにわたり書き綴るという作業は、ほとんどの学生が経験したことのない作業だからである。

私たちのゼミナールの学生たちは、このような作業を積み重ねることで、新しい考えを創ることの大変さを実感し、またそのプロセスを身につけていくことになる。

大学でしかできない教育

ちかごろ「即戦力」という言葉をよく耳にする。おそらくそれは、企業や組織に入り、すぐに仕事をこなせる人材という意味だろう。即戦力の育成こそ、社会が大学に求めるものだという主張もあるようである。もちろん「すぐに役立つ力」を身につけることに反対というわけではない。しかしそれ以上に、「いつまでも役に立つ力」を身につけることが大切だ。学生たちが、30代、40代、50代と年齢を重ねたときにも色あせない、骨太の知識や能力を育てる責任が大学にはある。

「実践的」という言葉も流行っている。本来、理論や論理を行動に移すことを意味する言葉だが、実際の業務に即したという意味の「実務的」と混同されることもあるようである。当然のことながら、「理論や論理を行動に移せる」ことは大切だ。しかしそのためには、まず理論や論理をしっかり身につける必要がある。よほどの天才でないかぎり、行動するだけで、深い洞察力や論理的思考力を身につけることは難しい。

即戦力の基となる実務的知識、つまり実際の業務ですぐに役立つ知識は、日々の業務を通して身につけることも可能だろう。しかし、企業や組織で働きながら基本的な知識や論理を体系的に学んだり、考える力を身につけたりすることは容易でない。これは、多くの優秀な実務家が社会人大学院で学ぼうとすることからも明らかである。同様のことは高校生や現役大学生にもあてはまる。ビジネス体験をするだけで、求める能力が得られるのならば、わざわざ大学で学ぶ必要はない。

分野を問わず、基本的な知識や論理というものは、古くさくて面白みのないものと思われがちだ。しかし実際には、基本的な知識や論理ほど、いつまでも輝きを失わない。それは、巷をにぎわす多くの「最新理論」があっという間に風化してしまうのと対照的である。

だからこそ大学では、企業や組織に入ってからでも学べることよりも、企業や組織に入ってからは学べないことに取り組むべきではないだろうか。「大学でしかできない教育」を志向することが大切なのではないだろうか。研究論文を中心とする私たちのゼミナールは、そんな理念に基づいている。

受賞と実績

久保田ゼミナールの学生たちが行った研究は、学外・学内の双方において高く評価され、いくつもの受賞をしてきた。これまでの実績については受賞と実績のページをご覧いただきたい。

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